
「水も使えない、お風呂にも入れない。でも生理は止められない」
災害は、ある日突然、あなたの”当たり前”を奪っていきます。命が助かったあとにこそ始まるのが、避難生活の「小さな我慢」の積み重ね。なかでも多くの女性が最初に直面するのが、フェムケア(デリケートゾーンや生理まわりのケア)に関する困りごとです。ナプキンが替えられない、デリケートゾーンがかゆい、着替える場所がない……。
誰にも言いにくいこの「困った」は、放っておくと心と体をじわじわ削っていきます。でも、これは「気にしすぎ」でも「ぜいたく」でもないんです。自分を清潔で快適に保つことは、過酷な状況を生き抜くためにも必要な備えなんです。
この記事では、防災バッグにフェムケアを組み込むべき理由、今日からそろえられる厳選アイテムや備え方のコツまで、わかりやすくまとめました。読み終わるころには、あなたの防災ポーチが「本当に自分を守れる中身」に変わっているはずですよ。
1.なぜ「防災フェムケア」が大切なの?被災地のリアルな課題
お肌の曲がり角とは、肌が本来持っている回復力(うるおいを保つ力・ハリを生み出す力)がピークを過ぎ、ゆるやかに衰えに転じるターニングポイントのことで大きな災害のあと、支援物資として真っ先に届くのは食料や水、毛布です。もちろんそれらは命綱。けれど、女性特有のケア用品は後回しになりがちで、避難所に十分行き渡らないことも少なくありません。「言い出しにくくて我慢した」という声は、過去の被災地で何度も聞かれてきました。
被災地で実際に起こりやすい課題を、具体的に見ていきましょう。
①水が使えない避難所で起こりやすい「デリケートゾーン」のトラブル
シャワーもお風呂も使えない環境が、数日〜数週間続くことがあります。汗や蒸れがこもり、洗い流せない状態が続くと、かゆみ・かぶれ・においといったデリケートゾーンのトラブルが起こりやすくなります。特に生理中は経血によるムレも重なり、不快感が倍増しがち。清潔を保てないことは、感染症のリスクにもつながっていきます。
②「ナプキンが替えられない・捨てられない」という心理的ストレス
数に限りのあるナプキンを「もったいないから」と長時間つけっぱなしにしてしまう。使用済みのものを捨てる場所がなく、袋の中にため込んでしまう。替えられない・捨てられないという状況そのものが、大きな心理的ストレスになります。人目が気になって交換をためらう場面も多く、衛生面だけでなく気持ちの面にも影響してくるんですね。
③慣れない環境の変化からくる頭痛や胃腸の不調
慣れない床、絶えない物音、プライバシーのない空間。強いストレスと環境の激変は自律神経を乱し、頭痛・肩こり・胃の痛み・便秘・不眠といった不調を引き起こします。トイレに行きづらい環境から水分や食事を控えてしまい、症状がさらに悪化する……そんな悪循環も起こりがちです。
④通常のケアができずに出てくるお肌のトラブル
洗顔できない、メイクを落とせない、いつものスキンケアができない。乾燥した避難所の空気やマスクの摩擦も加わり、肌荒れ・ニキビ・かゆみが出やすくなります。「たかが肌」と思われがちですが、鏡に映る自分の変化は、想像以上に気持ちを落ち込ませるものなんです。
医師からのひと言
災害時にデリケートゾーンのトラブルが増えるのは医学的に説明のつく現象です。ナプキンを長時間替えられない状態は細菌が繁殖しやすく、膀胱炎や外陰部の炎症、まれにトキシックショック症候群のリスクにもつながりますし、トイレを我慢して水分を控えると膀胱炎・便秘に加え、足の血流が滞ってできる血栓(エコノミークラス症候群)も起こりやすくなります。「恥ずかしい」「まわりに悪い」と我慢せず、こまめに交換し、水分をとって体を動かすことが重要です。
2.防災バッグに入れておきたい「防災フェムケア」厳選アイテム

ここからは、実際に防災バッグへ入れておきたいアイテムを厳選してご紹介しますね。「水がなくても使える」「省スペース」「心もケアできる」を基準に選びました。
1. デリケートゾーンケア:水のいらない拭き取りシート・ミスト
シャワーが使えない環境の強い味方が、水のいらない拭き取りシートです。デリケートゾーン専用の弱酸性タイプなら、肌にやさしく、においやムレをすっきりリセットできます。スプレータイプのリフレッシュミストもあると、汗ばむ季節や気分転換にも便利ですよ。全身用のボディシートと使い分けると、少ない枚数でやりくりできます。
- 選ぶコツは、デリケートゾーン専用・弱酸性・ノンアルコールを目安に
- 個包装タイプなら、持ち歩き用ポーチにも入れやすいですよ
2.ショーツ型ナプキン・使い捨て布ナプキン
替える回数を減らせるアイテムは、避難生活では圧倒的に頼れます。ショーツ型ナプキンは、はくだけで長時間しっかり吸収。夜用として、また交換頻度を抑えたいときの備えとして優秀です。繰り返しの手洗いが難しい環境では、使い捨てタイプの布ナプキンも選択肢に入りますよ。多い日・少ない日に合わせて、数タイプを組み合わせて備えておくと安心です。
- 多い日・夜用に、ショーツ型を数枚
- 普段使い用に、通常ナプキンを多めにローリングストック
3. 吸水ショーツ(普段からの備えに)
吸水ショーツは、経血をショーツ自体が吸収してくれるアイテムです。ナプキンの消費を抑えられ、ゴミも減らせるので、限られた物資のなかで大きな味方になります。ただし「洗って繰り返し使う」のが前提なので、災害時だけでなく、普段から使い慣れておくことが大切なんですね。使用感を知っておくと、いざというときも安心して頼れますよ。軽い尿もれ対策としても日常使いできるので、備えと実用を兼ねられます。
4. 冷えとメンタルケア:下着に貼る温熱パッド、防寒靴下
避難所の床は、驚くほど底冷えします。冷えは血流を悪くし、生理痛や頭痛、気分の落ち込みを悪化させる原因に。下着やお腹に貼る温熱パッド(貼るカイロ)や、足元を温める防寒靴下を入れておきましょう。体を温めることは、こわばった心をゆるめることにもつながります。「あたたかい」という感覚は、それだけで大きな安心をくれるものなんですね。
5. 水なしでも落とせるメイク落とし
洗い流し不要の拭き取りタイプのメイク落としや、クレンジングシートがあれば、水が使えなくてもメイクや汚れをオフできます。肌を清潔に保てるだけでなく、「顔をきれいにできた」という感覚が、気持ちのリセットにもつながります。スキンケアも兼ねられる保湿タイプを選ぶと、乾燥した避難所でも肌を守れますよ。
医師からのひと言
拭き取りケアのときは、雑菌を尿道や腟へ運ばないよう、必ず前から後ろへ拭くのがポイントです。また、デリケートゾーンはもともと弱酸性で自浄作用があるため、洗浄力の強いボディソープでゴシゴシ洗うのはかえって逆効果になります。
3.盲点になりがちな便利グッズ
メインのアイテムに加えて、あると快適さが劇的に変わる便利なグッズを紹介します。
防臭袋
使用済みのナプキンやゴミのにおいを閉じ込める防臭袋は、捨てる場所がない避難所で心の負担を大きく減らしてくれます。「におい」への気づかいから解放されるだけで、ストレスは驚くほど軽くなるんです。ベビー用品コーナーなどで手に入る高機能タイプがおすすめですよ。
ロングスカート
一枚あると本当に助かるのがロングスカートです。個室のない場所での着替えや、下半身の目隠しとして使えます。巻きスカートやゴムタイプなら、上からさっと重ねて中で着替えられ、簡易的なプライバシー空間をつくれます。防寒にもなり、避難所での”困った”を静かに解決してくれる一枚なのでおすすめです。
4.今日からできる!「フェムケア×防災バッグ」の作り方と備えのコツ

「そろえるのが大変そう」と感じた方も大丈夫ですよ。特別なことをしなくても、いつもの習慣を少し変えるだけで、自然と備えは整っていきます。
「いつものポーチ」をそのまま防災用にスライドさせる(ローリングストック)
いちばん簡単なのは、普段使っているケア用品を”少し多め”に買って、使いながら備える方法(ローリングストック)です。ナプキンや拭き取りシートを常にストックし、古いものから使って買い足していけば、使用期限切れを防ぎながら、いつでも一定量が手元にある状態をキープできます。
わざわざ「防災用」を別に用意するのではなく、いつものポーチの中身を、そのまま防災の備えとしてスライドさせる。
この発想なら、無理なく続けられますよ。
持ち歩く用(ポーチ)と避難用(バッグ)の仕分け
備えは「置き場所」で考えると失敗しません。使うシーンに合わせて、大きく2つに分けておきましょう。
① 常に持ち歩く用(ミニポーチ)
バッグに入れっぱなしにする、外出時の”お守りセット”。ナプキン数枚・拭き取りシート・防臭袋・小さな温熱パッドなど、「今すぐ困ったとき」に対応できる最低限をコンパクトに。突然の災害は、外出先で起こるかもしれませんからね。
② 自宅・避難所用(防災バッグ
数日〜数週間の避難生活を想定した、まとまった量のストック。吸水ショーツ、ショーツ型ナプキン、メイク落とし、ロングスカート、防寒グッズなどをしっかり収納して、自宅の防災バッグに組み込んでおきます。
この「2段構え」にしておけば、外出時も、いざ避難となったときも、どちらの状況でも自分を守れます。年に2回、防災の日(9月1日)や季節の変わり目などに中身を見直す習慣をつけると、さらに万全ですよ。
まとめ:自分を大切にすることが、いちばんの防災対策になる
防災フェムケアは、決して「特別なぜいたく」ではありません。清潔でいられること、痛みや不快をやわらげられること、少しでも自分らしくいられること。
それらはすべて、過酷な状況を生き抜くための、確かな力になります。
災害という非常事態のなかで、自分をいたわり、大切にできるかどうか。その備えがあるだけで、心の余裕はまるで変わってきます。
まずは今日、いつものポーチに防臭袋を1枚足すことから始めてみませんか。その小さな一歩が、未来のあなたを守る、いちばん確かな防災対策になりますよ。
医師からのひと言
かゆみ・痛み・不正出血・発熱・排尿時の痛みなどが続くときは、我慢せず避難所の救護班や保健師、巡回の医療チームに遠慮なく相談してください。市販薬で様子を見てよいものと受診が必要なものの見分けは難しいので、症状が強い・長引くときほど早めの相談が安心です。そして、低用量ピルやPMSの薬などの持病薬を使っている方、妊娠中・産後の方は、数日分でも多めに薬と衛生用品を備えておくことを推奨します。
監修医師

藤東淳也先生
日本産科婦人科学会専門医、婦人科腫瘍専門医、細胞診専門医、日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医、日本内視鏡外科学会技術認定医で、現在は藤東クリニック院長。
専門知識を活かして女性の快適ライフをサポートします。



